『DEATH NOTE』を読み返したとき、「ここ、どういう作戦だったっけ?」となりやすいのが、夜神月からキラとしての記憶がなくなる一連の展開です。
月はLに追い詰められた末、デスノートとの所有関係を自分から断ちます。その結果、ノートを使ってきた記憶も失い、それまでとはまったく違う立場でキラ事件と向き合うことになります。
普通なら、自分の作戦を忘れてしまえば圧倒的に不利です。それでも月がこの方法を選べたのは、記憶をなくした後の自分まで、作戦を成立させる要素として考えていたからです。
※ヨツバキラ編の重要な内容に触れています。
この記事でわかること
- 夜神月がデスノートの所有権を手放した狙い
- なぜキラの記憶までなくす必要があったのか
- 記憶を失った月が以前と違って見える理由
- 月が「何も知らない自分」をどう利用したのか
- 「計画通り」は何を指しているのか
月が手放したかったのはノートだけではなく「キラとしての自覚」
月が抱えていた厄介な問題は、デスノートを隠しておくだけでは解決できませんでした。
Lは月をキラではないかと疑っています。ノートを手元から遠ざけても、月本人にキラとして過ごした記憶が残っている限り、Lの前では過去を隠し続けなければなりません。
そこで月は、証拠を隠すだけではなく、自分の中にある秘密まで一時的になくす方法を選びます。
演技で無実を証明する方法には弱点がある
もし月がすべてを覚えたまま「自分はキラではない」と主張していたなら、どれほど頭が切れても演技を続ける必要があります。
Lとの会話では何を知っているのか悟られないようにしなければならず、思わぬ問いかけにも即座に対応しなければなりません。
しかも相手は、人のわずかな違和感から疑いを深めていくLです。
ところが、本人にキラだった記憶がなければ事情は大きく変わります。
月自身が「自分はやっていない」と本気で考えているため、無実を装うための演技が必要ありません。
記憶を失ったことで月の反応そのものが変わる
所有権を放棄した後の月は、自分がデスノートを使っていたことを認識できなくなります。
ここで重要なのは、頭脳や基本的な性格まで失ったわけではないことです。
月の中から抜け落ちたのはデスノートと関わっていた記憶であり、優れた判断力やプライドの高さ、物事を論理的に考える能力は残っています。
そのため、記憶がない月は「能力の低い月」になるのではなく、キラになる前の価値観で優秀な頭脳を使う月に近い状態になります。
疑われた月が反発するのも自然な行動になる
過去を覚えていない月からすれば、Lに疑われ続けること自体が理不尽です。
自分には身に覚えがないのですから、「なぜ自分が疑われなければならないのか」と反発するのも不自然ではありません。
つまり月は、Lに対して無実らしく見える反応を計算して作る必要すらなくなっています。
嘘を上手につくのではなく、嘘をつく必要がない自分になる。ここが所有権放棄を使った策の大きなポイントです。
記憶をなくした月が以前とは違って見えるのはなぜ?
この時期の月を見ると、「デスノートを持っていた頃と性格が違う」と感じる人もいるかもしれません。
実際には別人になったわけではありません。ただ、自分がキラとして行ってきたことを知らないため、判断の前提が大きく変わっています。
記憶のない月にはキラを守る理由がない
キラだったことを知らない月にとって、キラ事件は自分とは別の誰かが起こしている出来事です。
そのため、キラの正体を隠したり、捜査を邪魔したりする理由がありません。
むしろ犯人を見つけることができれば、自分に向けられた疑いを晴らす材料にもなります。
こうして月は、以前なら自分を追い詰めることになるはずの捜査に、自ら力を貸す立場になります。
Lに対する月の態度にも違いが出る
キラとしての記憶がある月にとって、Lは自分の目的を邪魔する最大の障害でした。
一方、記憶のない月にとっては、自分をしつこく疑う相手ではあるものの、同じ事件の真相を追っている人物でもあります。
もちろん二人の性格が合うわけではなく、疑うLと疑われる月の間では感情的な衝突も起こります。
この頃の二人を見ると、デスノートの存在が月とLの関係をどれほど大きく変えていたのかも分かります。
記憶のない月のほうがキラを追うには都合がいい
ここが月の策の面白いところです。
記憶を持つ月が捜査に参加すれば、「自分へたどり着かれないようにする」という別の目的が混ざります。
しかし記憶のない月には、その必要がありません。
犯人を見つけるために能力を使い、怪しい点があれば遠慮なく追及できます。
そして月の推理力が高ければ高いほど、現在デスノートを持っている人物へ近づく可能性も高まります。
つまり、キラではない月だからこそ、以前の月ではできない役割を果たせる状態になっていました。
月は「何も知らない自分」をどう作戦に利用したのか
この策を理解するうえで重要なのは、記憶をなくした月が、以前の計画を秘密裏に実行していたわけではないという点です。
本人は何も知りません。
それでも以前の月にとって不都合ではなかったのは、自分が何も知らなくても取りそうな行動をある程度想像できたからです。
月は未来の自分へ細かな指示を残していない
記憶喪失を使う作戦と聞くと、「忘れた後の自分が読める指示書を用意していた」のような仕組みを想像しやすいですが、月の発想は少し違います。
月が頼ったのは、自分自身の能力や性格です。
キラ事件が続いていて、自分まで疑われているなら、記憶のない自分は真犯人を探そうとするだろう。
そして捜査に加われば、自分の頭脳を使って核心へ近づこうとするだろう。
月は、未来の自分に命令する代わりに、未来の自分が自発的に動くことを見込んでいたと考えると分かりやすくなります。
別のキラがいることで月だけを見る捜査ではなくなる
月が記憶をなくしただけでは、Lとの勝負を大きく動かすことはできません。
重要なのは、月以外の人物がデスノートを使う状況が生まれることです。
別の人物がキラとして動けば、捜査する側には新たな追跡対象ができます。
その人物を突き止めようとすれば、やがて「どんな手段を使っているのか」という問題にも近づいていきます。
月が作ろうとしたのは、自分が記憶を失っている間にも、デスノートを中心とした出来事が別の場所で動き続ける状況だったわけです。
ヨツバキラをめぐる部分は「作戦の結果」と見ると分かりやすい
その後の捜査では、ヨツバグループが重要な対象になります。
弥海砂の行動もあり、現在のキラへ近づく手がかりが増えていきます。
やがて火口を押さえる段階まで進んだことで、キラが使っていたものにも捜査の手が届くことになります。
ここを細かな未来予測として見るよりも、別の所有者を追えば、いずれノートそのものへ近づく可能性があるという大枠を月が利用したと考えると、一連の策を理解しやすくなります。
「計画通り」はすべてを予言していたという意味ではない
月の記憶が戻る場面は、所有権放棄から続いてきた作戦の意図が一気につながるところです。
それまでの月は、過去の自分が何を考えていたのか知りませんでした。
しかし記憶を取り戻したことで、記憶を手放す以前の目的と現在の状況を、再び同じ人物として認識できるようになります。
「計画通り」で戻ってきたのは月自身でもある
この場面で印象的なのは、デスノートが戻ってきただけではありません。
キラとしての記憶を持つ夜神月そのものが戻ってきます。
それまで真剣にキラを追っていた月と、Lを出し抜こうとしていた月が、記憶の回復によって再び一人の中でつながります。
そのため「計画通り」は、単に「予想していた物が手元に来た」というだけでなく、自分から切り離していたキラとしての立場を取り戻したことにも意味があります。
他人の行動まで完全に決められる作戦ではなかった
一方で、月が周囲で起きるすべてを一場面ずつ正確に予測していたと考える必要はありません。
別の所有者がどう動くのか、Lがどんな判断をするのか、捜査がどの方向へ進むのかには不確定な部分があります。
月にも自由に動かせない要素が多く残っていました。
それでも、別のキラが活動し、それを捜査する流れが続けば、デスノートが再び表に出る可能性があります。
月が用意していたのは一本の決められた未来というより、条件がそろったときに自分が戻ってこられるルートだったと見るとよいでしょう。
成功しなければ自分でも修正できない危険があった
もちろん、この方法は非常に危険です。
記憶を持たない月には、「以前の自分がこう考えていたから、ここを修正しよう」という判断ができません。
想定していた方向から外れても、その理由さえ分からないまま行動することになります。
それでも月は、自分の能力と性格、そして周囲の人間がキラを追う動きを利用できると考え、この手段を選びました。
頭の良さだけではなく、勝つためなら自分の記憶さえ一時的に手放す大胆さが表れている作戦です。
まとめ
夜神月がデスノートの所有権を放棄した理由を整理すると、単にノートを隠すためではなく、Lから向けられた疑いを崩しながら、その先へ進むための仕掛けだったことが分かります。
- 月はノートだけでなく、キラとしての記憶も一時的に手放した
- 記憶がなければ、Lの前で「無実の月」を演じ続ける必要がなくなる
- 記憶を失っても月の頭脳や基本的な性格は残っていた
- 記憶のない月は自分の疑いを晴らすためにも、本気でキラを追う立場になった
- 月は「何も知らない自分ならどう動くか」まで作戦に利用していた
- 「計画通り」は、細かな未来をすべて予言したことより、再びキラとしての自分へ戻れる仕組みを作っていた点が重要
月は自分だけが知る秘密を守り抜くのではなく、必要ならその秘密を自分自身からも消してしまいました。記憶をなくした月の行動まで含めて見直すと、この作戦が単なる頭脳戦ではなく、夜神月自身を駒として使った大胆な賭けだったことが、より分かりやすく見えてきます。

