『進撃の巨人』のライナー・ブラウンは、物語序盤ではエレンたちと同じ訓練兵として登場します。
体格がよく、仲間の面倒を見ることも多いため、頼れる兄貴分のような存在に見えていました。それだけに、ライナーとベルトルトの正体が明らかになった時、「ずっと仲間だったのに、なぜ裏切ったのか」と感じた人も多いのではないでしょうか。
ただし、ライナーの行動は「仲間だった人物が途中で敵へ寝返った」という単純な裏切りではありません。
ライナーはもともとマーレの戦士として目的を持ってパラディ島へ渡り、正体を隠したまま壁内で生活していました。ところがエレンたちと長い時間を過ごすうちに、任務の対象だった人々を本当の仲間として意識するようになります。
その結果、任務を果たす「戦士」と、仲間を守ろうとする「兵士」という二つの立場の間で揺れることになりました。
※物語終盤までの内容に触れています。
この記事でわかること
- ライナーがエレンたちを裏切る形になった理由
- ライナーが壁内へ潜入した本来の目的
- 「戦士」と「兵士」の間で揺れた理由
- エレンたちへの仲間意識は本物だったのか
- マーレでエレンと再会した場面が持つ意味
ライナーはなぜエレンたちを裏切った?最初から任務を背負っていた
ライナーがエレンたちを裏切った理由を考える時、最初に押さえておきたいのは、壁内で暮らしている途中に突然敵になったわけではないことです。
ライナーはベルトルトやアニたちとともに、マーレの戦士としてパラディ島へ送り込まれていました。
エレンたちから見れば「信頼していた仲間の正体が敵だった」ことになりますが、ライナー側から見ると、敵地へ潜入し、その中で仲間として暮らすことになったという状況です。
ライナーたちは目的を持って壁内へやって来た
ライナーたちがパラディ島へ渡ったのは、偶然ではありません。
マーレ側の戦士として任務を与えられ、壁内にある重要な巨人の力を探すために送り込まれています。壁を破壊して混乱を起こし、その後に身分を隠して壁内へ入り込む流れも、その目的につながっています。
そのため、後になってライナーの正体が明らかになっても、その瞬間に敵へ変わったわけではありません。
それまで隠されていたライナーの本来の立場を、エレンたちが初めて知ったと考えたほうが分かりやすいでしょう。
エレンたちと兵士として過ごしたことも潜入につながっていた
壁内へ入り込んだライナーたちは訓練兵となり、エレンやミカサ、アルミンたちと同じ環境で生活します。
訓練を受け、食事をし、危険な場面では互いに助け合う。周囲から見れば、ごく普通の仲間です。
正体を隠したまま壁内で目的を果たすには、周囲へ溶け込む必要があります。その意味では、兵士として行動することも潜入を続けるために必要でした。
しかし、そこで過ごす時間が長くなるにつれ、ライナーの中でも事情が変わっていきます。
最初は任務の対象だった人々が、簡単には切り捨てられない仲間へ変わっていったのです。
正体を明かすまでにライナーの葛藤は積み重なっていた
ライナーがエレンへ自分たちの正体を明かす場面は、『進撃の巨人』の中でも独特です。
重大な告白であるにもかかわらず、日常会話の延長のような形で話し始めます。そのため、初めて読むと「なぜこんなに普通に話しているのか」と戸惑う場面でもあります。
しかし、それまでのライナーは、任務を遂行する戦士としての自分と、仲間と過ごしてきた兵士としての自分の間で大きく揺れていました。
その場で突然裏切ることを決めたのではなく、長く抱えてきた矛盾が表へ出た場面として見ると、ライナーの不安定な言動も理解しやすくなります。
ライナーが「戦士」と「兵士」の間で揺れたのはなぜ?
ライナーという人物を理解するうえで重要なのが、「戦士」と「兵士」という二つの立場です。
マーレから与えられた任務を果たそうとするライナーは「戦士」であり、壁内でエレンたちと生活し、仲間を守ろうとするライナーは「兵士」として行動しています。
問題は、兵士として過ごした時間まで単なる演技ではなくなっていったことでした。
「戦士」のライナーには故郷へ帰るための任務があった
ライナーには壁内とは別に故郷があり、そこには家族もいます。
幼い頃からマーレ側の社会で育ち、戦士となることを目指してきたライナーにとって、与えられた任務は簡単に放棄できるものではありませんでした。
パラディ島へ来た後も、任務を果たして故郷へ帰るという目的は残り続けます。
一方で、壁内で生活するうちに、自分たちが敵だと考えていた人々も家族を持ち、笑ったり悩んだりしながら暮らしていることを知ります。
遠くから「敵」と考えていた時と、同じ場所で生活するようになった後では、ライナーの中で相手の見え方も変わっていきました。
「兵士」のライナーは本気で仲間を助けていた
壁内でのライナーは、仲間から頼られる人物として描かれています。
困っている仲間へ手を貸し、危険な状況では自分から動こうとすることもあります。
もし最初から最後まで、すべてを敵を欺くための演技として割り切れていたのであれば、ライナー自身がここまで苦しむこともなかったでしょう。
敵として接するはずだった相手を、本当に仲間だと思うようになってしまった。
その変化によって、任務を果たさなければならない戦士と、目の前の仲間を助けたい兵士が同じ人物の中でぶつかるようになります。
二つの立場を自分の中で整理できなくなっていった
ライナーは、戦士としての任務を覚えている一方で、兵士として仲間を守ることも当たり前のように考えるようになります。
自分たちが壁内へ何をするために来たのか分かっていながら、危険に陥った仲間がいれば助けようとする。その矛盾を抱えたまま長い時間を過ごしたことで、ライナー自身も強く揺らいでいきました。
正体を知った後に序盤を読み返すと、仲間思いに見えたライナーの行動も、単なる潜入のための芝居では説明しきれないことが分かります。
エレンとライナーはなぜ敵同士になった?二人には似た部分もある
ライナーの正体を知ったエレンにとって、彼は自分たちの日常を壊した側の人物です。
しかも、それまで仲間として信頼していた相手でもあるため、エレンがライナーへ向ける怒りは単なる敵への感情だけではありません。
しかし物語がマーレ側まで描かれるようになると、エレンとライナーの関係は「主人公と裏切り者」だけでは整理できなくなっていきます。
正体が明らかになった後、二人は直接戦うことになる
ライナーが鎧の巨人であることを明かした後、エレンは巨人化してライナーへ立ち向かいます。
それまで同じ訓練兵として過ごしていた二人が、巨人同士として戦うことになり、関係は決定的に変化します。
エレンにとってライナーは、単なる敵国の兵士ではありません。
同じ時間を過ごした仲間でありながら、自分の故郷を壊した側でもあります。そのため、ライナーへの怒りには裏切られたという感情も重なっています。
ライナーの事情が分かっても過去の行動が消えるわけではない
物語後半では、ライナーがどのような環境で育ち、なぜ戦士を目指したのかも描かれます。
その背景を知ることで、まだ幼かったライナーが自分一人ですべてを自由に決められる立場ではなかったことも見えてきます。
ただし、事情が明らかになることと、壁内で起きたことが正当化されることは別です。
ライナーがなぜその行動を取ったのかは理解できても、その結果として多くの人が傷ついた事実までなくなるわけではありません。
『進撃の巨人』では相手側の事情が描かれることで、単純に善と悪へ分けられない構図が少しずつ見えてきます。
マーレで再会した時にはエレン側の立場も変わっていた
物語後半では、今度はエレン自身が海を越え、マーレへ入り込みます。
そこでエレンは、故郷へ戻っていたライナーと再会します。
かつてライナーは外の世界からパラディ島へ入り、エレンたちの暮らしていた場所を攻撃しました。それに対して今度は、エレンがライナーの暮らす側へ潜入しています。
立場が反転したことで、二人の関係も以前とは違って見えるようになります。
エレンはライナーと向き合った後、マーレで巨人化し、大きな戦いを引き起こします。
ライナーは本当にエレンたちを仲間だと思っていたのか
ライナーの正体を知ると、「それまで仲間として接していたのも全部ウソだったのか」と気になります。
しかし、ライナーの言動やその後の苦しみまで見ると、エレンたちへの仲間意識をすべて演技だったと考えるのは難しいでしょう。
むしろ、任務の対象だった人々を本当に仲間だと思うようになったからこそ、戦士としての立場との矛盾が大きくなったと見ることができます。
仲間として過ごした時間まで偽物だったとは言い切れない
ライナーが正体を隠していたことは事実です。
そのため、エレンたちに対して自分の本当の目的を伏せたまま付き合っていたという意味では、最初から隠し事のある関係でした。
しかし、一緒に訓練し、危険を乗り越え、何度も仲間を助ける中で生まれた感情まで、すべて最初から計算していたわけではありません。
長い時間を一緒に過ごしたことで、壁内の人々はライナーにとって「顔も知らない敵」ではなくなっていきました。
仲間だと思ったからこそ罪悪感も大きくなった
相手を完全な敵だと思えていれば、自分のしたことを別の形で受け止められたかもしれません。
しかしライナーは壁内で暮らし、そこにいる人々も自分たちと同じように生活していることを知ってしまいます。
そのうえで、自分が彼らの生活を壊した側であることとも向き合わなければなりません。
仲間への気持ちが本物になったからこそ、自分が戦士として行ったこととの矛盾も重くなっていったのでしょう。
ライナーは「裏切り者」だけでは整理できない人物
正体が明らかになった直後だけを見ると、ライナーはエレンたちをだましていた裏切り者に見えます。
しかし物語が進むにつれて、ライナー自身もマーレ側の価値観の中で育ち、幼い頃から戦士になることを目指していたことが分かります。
そして実際にパラディ島へ来ると、敵だと教えられていた人々と暮らし、本当の仲間のような関係まで築きました。
それでも、自分が過去にしたことから逃れることはできません。
任務を果たすべき相手を仲間だと思ってしまい、仲間だと思いながらその生活を壊した責任も背負い続ける。その矛盾こそが、ライナーという人物を単純な敵役では終わらせない大きな要素です。
まとめ
ライナーがなぜエレンたちを裏切ったのかを振り返ると、「仲間だったのに途中で敵へ寝返った」というだけでは説明できないことが分かります。
- ライナーは最初からマーレの戦士として目的を持ってパラディ島へ渡っていた
- 壁内では正体を隠し、エレンたちと兵士として生活していた
- 長く一緒に過ごすうちに、任務の対象だった人々を本当の仲間として意識するようになった
- 任務を果たす「戦士」と仲間を守る「兵士」の立場がライナーの中でぶつかっていた
- 正体が明らかになった後、エレンとライナーは直接敵として戦うことになる
- 物語後半ではエレン自身がマーレへ潜入し、かつてとは立場が反転する
- ライナーの事情を理解することと、過去の行動を正当化することは別である
ライナーが印象に残るのは、敵だったから仲間への態度もすべてウソだった、という人物ではないからでしょう。
任務のために敵地へ入ったのに、そこで出会った人々を本当に仲間だと思うようになってしまった。それでも自分がしてきたことから逃げることはできません。
正体を知った後でもう一度序盤を振り返ると、頼れる兵士として描かれていたライナーの言葉や行動も、最初に読んだ時とは違って見えてきます。

